続倉敷珈琲物 第20話「コーヒーが精力減退飲料だって...?」
....1674年-ロンドン.....
家庭の主婦によるコーヒー反対の請願書
真に性愛の自由の守り手である人々に
コーヒーという名の人体をひからびさせ
衰弱させる液体の過度の飲用が
その性に及ぼす大いなる不都合について
反省を求める為に提出される女性の請願書
「なんとも凄まじい表現の請願書のタイトルだね。これは本当の話しなのラッキー...?」
「もちろんでんがな。1674年にコーヒー店反対のスローガンのもとに主婦が総決起してこんな請願書を市長に提出し、市中にも沢山配布しましたんや。」
「しかし、こんなこと医学的にも根拠はないし、こんなことでコーヒーが飲めなくなったって言うんじゃ〜ないでしょうね?」
「あたりまえでんがな。実際のところは、亭主が家庭の団欒よりも、コーヒー店仲間との交流を優先したというか、ほとんど入り浸たり状態だったことに、嫁さんたちが辛抱たまらんようになって決起したというのがほんまやろうね。」
「...で、この請願書はどうなっちゃったの...?」
「まあ、この請願書に対する男側からの回答書がこれまたふるっとりまんのや!ほれ、見てみ!」
男たちからの回答書
最近スキャンダラスなパンフレットによって
投じられた不当な讒謗から、この液体の
性質と美点とを擁護するための、コーヒーに
対する女性の請願への男性の返答。
「...とまあ、なんとも粋なというか、なんというか、なかなかおもろいでっしゃろ?」
「結局はコーヒーそのものを問題とした訳ではなく、家庭をかえりみない亭主たちへ、女性たちが反発したということだよネ?」
「まあ、そういうことやけど、実際女性だってコーヒーハウスに行きたかった人もいたんちゃうかな〜?女性がコーヒーハウスに堂々と行けるようになるきっかけのコーヒーハウスが、これまたおもしろいねん」
「もったいぶらないで、早く教えてよ!」
「まあまあ、その前に、タカシはドイツときいてどんな飲み物を連想する...?」
「そりゃ〜ビールでしょう。」
「そやね。じゃ〜イタリアは?」
「ワインかな〜?」
「フランスは?」
「やっぱりワイン。」
「それではイギリスは?」
「そりゃ〜紅茶でしょう!」
「やっぱりコーヒーはでてきまへんな〜。これだけ流行ったコーヒーハウス、まあ当時2千とも3千とも言われたほど一世を風靡したコーヒーハウスが、どうしてイギリスの飲み物として今に伝わらなかったのか...?
こんな疑問の解決の為に歴史を旅すると、女性のコーヒーハウスへの出入りが広まる歴史の一場面にも遭遇しまんねや。」
「なんだか、難しそうだから、簡単に教えてよ!」
「OK! OK! では、ちょっと真面目な語り口調で...
まず、コーヒー貿易競争でイギリスはオランダに負けてしまいます。
イギリスの植民地セイロンでのコーヒー栽培が疫病で全滅してしまいます。
オランダがジャワで栽培に成功し、1730年以降モカを駆逐してヨーロッパ貿易を独占しました。
当然イギリスではコーヒーは急騰し、かわりに紅茶の輸入を促進し宣伝に力を入れるようになりました。
もともと紅茶はコーヒーよりもかなり高いものでしたが、一部のコーヒーハウスでコーヒーとともに売られるようになります。
イギリスのコーヒーハウスはどんどんクラブの性格が強くなり、閉鎖的な集団が形成され、本来の自由で開かれた社交場の雰囲気が失われていきました。
女性の出入りを禁止したため、コーヒーはコーヒーハウスでだけの男の飲み物として存在し、家庭の飲み物として主婦の支持を得、地位を確立することは出来ませんでした。
不老長寿の飲み物として茶は宣伝され、次第に多くのコーヒーハウスでも飲まれるようになり、そのうちコーヒーを凌ぐほどの人気となり、全てのコーヒーハウスで茶がふるまわれるようになりました。
この風潮に目を付けたのが、トーマス・トワイニングという、どこかで聞いたことがある名前のオッチャンでした。
1706年にテベロー広場のテンプルの近く立地条件の優れた場所に、新しい形の「トムのコーヒーハウス」をオープンしました。
この店は2つの大きな特徴をもってスタートしました。
まず、紅茶に特に重点を置き、紅茶専門店として紅茶のブレンドを客に選ばせました。
次に、女人禁制を打破して、女性客を歓迎しました。
紅茶の人気が上昇し、繁盛したこの店のとなりに、1717年「ゴールデン・ライオン」という紅茶の小売専門店の店を作ります。
世界的に有名なトワイニング紅茶はこの店から始まりました。
コーヒーにとって変わることになる紅茶が初めてふるまわれたのがコーヒーハウスだったていうのも皮肉やけど、女性を歓迎した最初の店もティーガーデンではなくコーヒーハウスだったというわけや!
こうしてクラブ化と女人禁制に反発を感じていた女性層に大歓迎され、女性を通じて紅茶は一般大衆の家庭に定着する糸口となりました...
というわけやな。」
「なるほどネ〜。いつの時代も女性の力を軽んじていてはいけませんよって言う教訓みたいだね。」
「そういうこちゃね。イギリスのコーヒーハウスはその性格からも、多くの文化や歴史を育んできた訳やけど有名な話しが多すぎて話し切れまへん。まあ興味があるなら参考文献を見て勉強してちょうだい。」
「わかったわかった。そのうち読んでみるよ。でも日本へどのように伝わったのか...というのが最終目標だから、日本へのキーポイントとなる国へそろそろ連れて行って欲しいんだけどなあ〜...」
「わかってまんがな。そう来るやろうと思て、さっきの話しの中にちゃ〜んと次の国への布石をうっとりまんがな。まかさんかい!」
ますますガラが悪くなってくるラッキーの関西弁設定を少々後悔しながらも、そろそろ日本が恋しくなってきた自分に気付くタカシでありました。
さて、次なる国は...どこ?
お楽しみに!