続倉敷珈琲物 第6話「月の砂漠の恋物語」その1
この物語を書くきっかけを作ってくだった社長が抱くいにしえのコーヒーロードは「月の砂漠」だった。
ラクダに揺られながらコーヒー豆を運ぶ光景が目に浮かぶと良く言われていた。
そんなシーンをこの物語の中に取り入れようと悩んだ末に、書いたのがこの第6話だった。
かなり恥ずかしい思いで無理して書いたことを記憶している。
恥ずかしいが、そのまま掲載することとします。笑わないで読んでください.....
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真っ暗な闇の中、突然眼下に現われた1本の光の帯。
何もない砂漠の真ん中にくっきりと浮かび上がったその光の帯は、整然と平行に並ぶスポットライトに照らされたイエメンの首都サナア国際空港の滑走路だった。
「5年前、珈琲研究家のガイドした時手配したイエメンのガイドに電話しといたよ。名前はムハンマド。空港まで迎えに来てくれる。<TAKASHI>と書いたカードを持ってる。英語通じる。珈琲のこといろいろ知ってる。気をつけて。じゃ〜元気で!.....ありがとうございましたです。また、いつか................きっとまた...さよなら......さよなら。」
ハラールから帰ったその足ですぐイエメンに向けて飛び発つ決心をしたのは、特に急ぐ理由があった訳ではなかった。わずか数日を共にしたアベベとの別れを思うだけで、無性に感傷的になってしまう自分に気付いていたからである。
「ありがとう。ありがとう。本当にありがとう。また...」
知る限りの感謝の言葉をアベベに捧げようとして、結局ありがとうしか言えなかった。初めて会ったときと同じように大きく手を振るアベベの姿が涙でかすみ、そして小さくなっていった。
タラップから降りるとそこはまさに砂漠であった。
気が付くとさっきまで眩いばかりに照らし出されていたスポットライトは全ておとされ、周りの景色を月明りだけが映し出していた。
幻想的な異次元空間のようである。不思議なことに空港ビルもイミグレーションも無く、さっきまでガヤガヤと大勢いた同じフライトの乗客の姿もどこにも見えなくなっていた。
「どうなってるんだ...?」
必死に周りを見渡すと、月明りに慣れてきた私の目に飛び込んできた文字があった。
しかし、そのカードを持っていたのは、以外にも黒ずくめの衣装をまとった女性だった。
ムハンマドとは男性だと決め込んでいた私だったが、意外な展開に興奮した。
イスラムの女性は夜分外出することは無いと聞いていたのだが...?
「ムハンマドさんですか?」
女性は私の質問に答えるでもなく、目で私を促し闇の中へと導いた。
心の中まで見透かされそうな、そんな目をした女性だった。
<きっとすごい美人に違いない>と密かに確信した私の心まで見透かされているのだろうか...?などど思いを巡らせながらついて行くと、そこにはラクダが2頭用意されていた。
先にラクダに乗った女性の目は、私も同じようにラクダに乗れと合図していた。
不思議なことに初めてのラクダに自分でも驚くほど上手に乗ることができた。
ついてくるように、目で合図を送った女性は月明りの中、砂漠へとラクダを進めた。砂漠といっても砂だけではなく、遠くにぼんやりと岩山のような影が浮かんでいた。
かつてのイエメン商人たちは、このようにして涼しくなった夜、ラクダの背にゆられながらコーヒーを運んだのだろうか?
ロマンチックな月明りの中、ラクダにゆられる女性の後ろ姿をみつめながら、かなうはずの無いイエメンでのロマンスに思いを馳せた。
どうも人恋しくなってしまったようだ。
もしかしたら、これからの数日間の間に彼女のハートを掴めるかも?
すけべ心満載の40男の胸の内を見透かされないよう、しばらく彼女と目を会わすのをためらってしまった私でありました。