続倉敷珈琲物 第5話「美しき町ハラール」その1

      • <ラガール駅>---

「ほっ、本当にこれに乗るの...?」

いつか報道番組か映画で見たような光景を目のあたりにして、思わず口をついた。

「そうです!でもダイジョウブ。1等席をとってるよ。こっちこっち。」

アベベに手を引っぱられながら、<帰りは飛行機にしたほうが良い>と言った昨日のアベベの言葉を思い出していた。

列車の外まで人がしがみついている。
当然列車の中は...と言えば、おしくらまんじゅう状態で、それも、天井に向けて立体的なおしくらまんじゅう状態であった。

そんな状態の中で、既に寝ている豪傑もいれば、楽しそうに食事をしている家族、はたまた人を踏みつけながら列車内で物売りを始め出すオバチャンもいて、そりゃ〜もう大騒ぎ状態なのである。

しかし、みんな楽しそう。
こっちまで、何だか知らないけどワクワクしてくる。

<生きてる!>って感じがした。

アベベに手を引かれるようにして到着した1等席は、肘掛け付きのゆったりしたクッションのある座席で、快適そのものであった。(快適すぎて物足りないぐらい?)
料金は約1500円程である。おしくらまんじゅう状態の3等席はこの3分の1程で充分なのだそうだ。(じつの所、3等車両のワイワイにも興味が出てきたのだが、アベベの次の言葉でやはり1等席しかないと確信した)


ハラールへの中継地ディレダワにつくのは、今から12時間から24時間後だそうです」

「だそうですったって、12と24じゃあ全然違うじゃ〜ないの。エ〜?。本当に着くの...?」

アベベにあたったって、早く着く訳でもないのに、そう言わずにはいられなかった。
新幹線が1分遅れても、<本日は列車が遅れまして大変ご迷惑を......>とアナウンスが流れる日本と、まだ比べてしまう自分にも腹が立っていたのかもしれない。

当然のように出発時間が来ても走り出す様子もなく、眠るのが一番と覚悟を決めた。
いつ出発したのかさえわからなかったが、予定通り?に、列車はディレダワに無事到着した。

ハラールまでは、乗り合いワゴンで約1時間。頻繁に出ているので待つことはほとんど無かった。